OWNER INTERVIEW 05圧倒的スケールを誇る
“世界一居心地のいい”
海岸沿いのベーカリー

店舗デザイン施工事例107 フルフル風の森
物件名
FullFull Kaze no Mori
タイプ
店舗デザイン設計
住所
福岡市東区香住ヶ丘7-4-2
電話番号
092-410-0582
営業時間
10:00〜18:00(平日)、8:00〜17:00(土日祝)
定休日
火曜・火曜祝日休
2019年3月にグランドオープンした『フルフル風の森』。本店をも凌ぐ規模の敷地や建物には、これまでにない革新のコンセプトが込められている。周囲にガーデンスペースも取り入れた、すべてが新しいベーカリーとその開放空間の魅力に迫る。

抜群の立地から構想するまったく新しいパン屋づくり

博多湾の入り江に沿って整備された香住ヶ丘海岸緑地。緑地と海面が織りなす自然美のコントラストは“都会のオアシス”と形容したくなるほど解放感に満ちあふれている。

2019年3月。緑地に隣接する約4600平方メートルの敷地に『フルフル風の森店』は開店した。ここから車で15分の距離にある本店(松崎本店)開業以降、4店舗目となる同所は、規模もコンセプトも従来のベーカリーとは一線を画している。

「パンを買うという行為だけなら他にも店はたくさんある。今回、大きな投資をしてでも、スケール感のある建物でベーカリーを営むということには、相応の思いがあります」。とは常務取締役を務める古田真幸さん。土地の購入から建物の計画・施工にかけた歳月は実に3年。並み居る同業者のなかでも、常にお客の支持を集めてきた『フルフル』ブランドをより確かなものにしていくためには何が必要か。模索の末に辿りついた答えが、この真新しい空間に凝縮している。

客層やニーズに寄り添い、キッズスペースやレストルームなどユニバーサルデザインによるコーナーも完備。壁面に踊るイラストもさり気なくアクセントになっている。
客層やニーズに寄り添い、キッズスペースやレストルームなどユニバーサルデザインによるコーナーも完備。壁面に踊るイラストもさり気なくアクセントになっている。

居心地の追求とは、究極のアナログを目指すこと

「ここで行うサービスは、ある意味で時代と逆行している部分があるかもしれません」。古田常務がそう語るのには理由がある。店舗デザインを計画している段階で、デザインを担当するコードスタイルの代表がアメリカ・ポートランドを訪れ、スターバックスの新業態を間近に触れた話を耳にし、これからのベーカリーとしてのあり方を強く意識したという。

開店が間近に迫った2019年1月のタイミングで、社長含む3名でカリフォルニアへ渡航したのも、新店舗のサービスの方向性(ソフト面)を確認するためのものだった。「今や誰もが知るアマゾンにも訪問しました。時代を牽引するデジタルサービスの力強さがありましたね。ただ、便利さが進む一方で、アナログの良さを伝えられる可能性も同時に感じました。新しい『フルフル』はその対極を目指そうと」。その場でないと得られない寛ぎや体験。良質なパンを対面で届けることはもちろん、さらなる付加価値として着目したのは「居心地」だった。

北欧デザインで統一された落ち着きのあるギャラリー空間。音楽好きの『フルフル』社長の私物音源(レコード)をコードスタイル製オーディオシステムでかけることができる。
北欧デザインで統一された落ち着きのあるギャラリー空間。音楽好きの『フルフル』社長の私物音源(レコード)をコードスタイル製オーディオシステムでかけることができる。

象徴的な空間を単なる開放スペースで終わらせない

店名につく「風の森」のフレーズは店の付加価値(=居心地)に大きく関係している。「緑地と海を目の前に臨む立地とあって、常に心地いい風を感じられるんです」。かつてない席数を誇るテラス席を1階、2階の両方に設えたのはそのためだ。

また、パンを購入した人だけでなく、純粋にコーヒーを嗜む人が「カフェ」としても利用できるのも特長といえる。空間の内外に設けたイートインは40席。地元ベーカリーが確保する客席としては、全国的にみても異例の規模だ。「とはいえ、単なるオープンスペースという使い方にはしたくなかった」。と古田常務。それを象徴するのが一階フロアの吹き抜けと目線のやや上にある2階席だろう。

緩やかな階段で結ばれた2つの空間には、ある共通点がある。それは「音」だ。「それぞれのフロアで目的に応じて寛げる音響にも気を遣いました」。とりわけ2階のフロアに設置したサウンドシステムでは、往年の名盤(レコード)をお客が自由に流せるというから驚きだ。

この店だけで味わえる本格コーヒーの豆は、ブラジルの契約農園から仕入れている。コーヒースタンドの機能も加わった空間で、タイムレスに寛ぎの時間を提供できるようになった。
この店だけで味わえる本格コーヒーの豆は、ブラジルの契約農園から仕入れている。コーヒースタンドの機能も加わった空間で、タイムレスに寛ぎの時間を提供できるようになった。

個室から生まれる交流とその場がもたらす豊かな時間

単なるフリースペースにとどまらない空間は他にもある。1階フロアの奥にある独立した個室(ファミリーラボ)だ。

「本店にも似たようなスペースがあるものの家族向けとしての性格が強い。せっかく別室を設けるなら、家族の行事だけでなく、お客様同士が触れ合えるイベントスペースとしても使ってもらおうと考えました」。今後、料理教室をはじめ、母親同士の会合や若いカップルの記念日など多様なシーンで利用できるスペースとして活用する予定だ。

庭師が監修するガーデンスペース。感性がはたらく庭をテーマに小高い丘や収穫のできる植物などを同居させた。常緑樹ばかりでなく落葉樹の存在によって四季を感じられるのも一興。
庭師が監修するガーデンスペース。感性がはたらく庭をテーマに小高い丘や収穫のできる植物などを同居させた。常緑樹ばかりでなく落葉樹の存在によって四季を感じられるのも一興。

高さも灯りも何もかもパンが主役の“舞台装置”

新規オープンに合わせ、提供するパンのメニューも大幅に見直した同店。「6割くらいは新しくなっています」。と古田常務。また同時に、焼き上がりのパンに加え、食パンやデリなどの種類で分ける陳列什器もコードスタイルに特注した。

こだわったのは、「パンの見やすさ」だ。言うまでもなく、店の主役はパン。中でも台の「高さ」は、女性の平均身長を割り出し、段ボールのサンプル台を作って実験するほどの徹底ぶり。焼きたてのパンを置く台に傾斜をつけて、お客が手を伸ばしやすくした点も実験から導き出した答えだった。

「本店、志免、天神の什器の中でも、今回の高さがベストだと思いますね」。と古田常務は手応えをにじませる。基準が決まったことで、隣り合う什器の高さも必然的に統一され、売場はすっきりとした印象に。お客目線の少し下にパンが並ぶアングルにすることで、パンと照明の灯りの調和が生まれ、商品が鮮やかに見えるようになった。

空間の壁面はすべて塗り壁によって照明のニュアンスだけでなく、周辺の無垢材や金属什器との調和が生まれている。予算上、クロスにする計画もあったが、仕上りの差異は想像するだけでも歴然だ。
空間の壁面はすべて塗り壁によって照明のニュアンスだけでなく、周辺の無垢材や金属什器との調和が生まれている。予算上、クロスにする計画もあったが、仕上りの差異は想像するだけでも歴然だ。

お客の感性が上がることで、サービス側の緊張感が生まれる

「『フルフル風の森店』は従来の店舗の中でも最も品質が高くなくてはいけないと思っている」。古田常務の決意の裏には、これまで地域に根ざした営業を行ってきたパン屋としての自負がある。居心地の良さを追求した空間で提供するパンは、“普通においしい”だけであってはならいという。

「ここで販売するパンやコーヒーは姉妹店とは価格も異なります。お客様の感性で様ざまな空間を楽しめるようにした分、提供するパンの見た目も味も質感も追求していきますし、何よりサービスを提供するスタッフ全員が“五感”をフル活用してお客様との豊かなコミュニケーションに努めています。皆、誇りをもって現場に立っていますよ」。

コードスタイルとともに作り上げる店舗は今回で3例目。中でも集大成として完成した『フルフル風の森店』は、従来の施工で培った信頼関係が随所に表れるプロジェクトとなった。人気パン店が目指す、さらなる高み。今後もっとも目が離せない店の一つであることは言うまでもない。

『フルフル』の代名詞であるレンガ素材は、今回もふんだんに使用。古田常務曰く「木で“温かみ”を表現するとすれば、レンガは“焼き”をイメージさせる」。どことなく工場的な雰囲気も醸している。
『フルフル』の代名詞であるレンガ素材は、今回もふんだんに使用。古田常務曰く「木で“温かみ”を表現するとすれば、レンガは“焼き”をイメージさせる」。どことなく工場的な雰囲気も醸している。